「ホルモンバランスの乱れですね」なんていわれたことがある人も多いかと思います。
特に更年期と呼ばれる年齢になると、よく耳にする言葉です。
では、更年期におけるホルモンバランスの乱れとはどういうものなのでしょうか?
そもそも、ホルモンってどこから分泌されるのでしょう?
今回はホルモン分泌のメカニズムと、更年期でなぜホルモンバランスが変化するのかをみていきたいと思います。
更年期で起こりやすい症状として、イライラや落ち込みなどの感情の変化があります。
この原因については脳とホルモン分泌の関係をみていくと、その答えがイメージできるようになります。
- ホルモン分泌の司令塔は脳(視床下部)
- 視床下部は自律神経系の中枢でもある
- ホルモンは様々な臓器に作用する
- 臓器からはホルモン量のフィードバックがある
目次
脳は大きく4つに分けられる
あらゆる働きの司令塔を務めるのが脳です。
ホルモン分泌だけでなく感情・記憶・運動・本能行動など、あらゆる活動をつかさどっている超ハイテクコンピューター。
では、脳の構造は一体どうなっているのでしょうか?
脳は大きく分けて、大脳・間脳・脳幹・小脳の4つに分けられます。
大脳
大脳は大脳皮質・大脳辺縁系・大脳基底核という3つの部分に分かれ、さらにそこからいくつかの部分に分かれます。
最初は、大脳皮質からみていきます。
大脳皮質とは大脳の一番外側にある部分で、前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉の4つの領域に分かれています。
- 前頭葉・・思考や判断、運動、言語機能(発語)などをつかさどる。大脳皮質で1番面積が広い。
- 頭頂葉・・温度や痛み、味覚などの知覚、動きや空間認識をつかさどる。
- 側頭葉・・聴覚や嗅覚、言語機能(言語の理解)などをつかさどる。
- 後頭葉・・視覚をつかさどる。
機能局在といって、大脳皮質はそれぞれの機能をつかさどっている部分がまとまってできています。
大脳皮質だけでも、たくさんの働きがあったんですね。
次に、大脳辺縁系。
大脳辺縁系は古皮質(海馬、帯状回、嗅脳など)と扁桃体などから構成されていて、本能行動や情動行動、記憶などをつかさどっています。
最後に、大脳基底核。
大脳基底核は大脳の深部にあり、運動の調節をつかさどっています。
大脳基底核が障害されると、自分の意思とは関係なく身体が動いてしまったりするパーキンソン症候群が出現します。
また人間の脳は、皮質の構造の中でも新しい部分に当たる大脳新皮質と呼ばれる部分が存在します。
この部分が発達しているからこそ、高度な考えを持つことができるわけです。
間脳
間脳は視床と視床下部に分類され、さらに視床下部に接するところには脳下垂体と呼ばれる部分があります。
視床下部は自律神経系の統合中枢でもあることから、交感神経・副交感神経とも深く関係している部分です。
脳下垂体は視床下部からの命令で、体内のホルモン量や分泌するタイミングを調節しています。
脳幹
脳幹は生命維持に関係する部分で、中脳・橋(きょう)・延髄の3つから構成されています。
- 中脳・・複視、動眼神経麻痺、パーキンソン病など
- 橋・・顔面神経麻痺など
- 延髄・・運動失調など
脳幹にはたくさんの脳神経(12番まであって、身体にとって重要な神経)が集まっていて、生命に関わる中枢もつかさどっている部分となります。
小脳
小脳は大脳の後ろの下の方で橋と延髄の背面に位置し、3つの小脳脚と呼ばれる部分から中脳・橋・延髄にそれぞれ連絡しています。
小脳は、平衡感覚と意識的な運動の調節に重要な役割を担う部分です。
姿勢を維持したり、細い動きをするときにも関係していて、身体の運動をつかさどっている部分です。
小脳なんていう名前がついていますが、実は大脳よりも神経細胞の数が多いのも特徴的です。
まとめ
- 大脳・・記憶や知覚、言語、運動などの人間的な部分をつかさどる
- 間脳・・自律神経やホルモン分泌、身体の調節などをつかさどる
- 脳幹・・脳神経が多く集まり、生命活動をつかさどる
- 小脳・・運動の調節や姿勢のバランスをつかさどる
ホルモンが分泌されるメカニズム
脳の中で視床下部は免疫系や内分泌系、自律神経系、体性神経系と深く関わっています。
体性神経とは、運動や感覚などをつかさどる神経です。
また、精神状態や環境の変化、体内環境の変化を受け、それに対応するようにホルモンの量をコントロールしています。
少し詳しくみていきましょう。
視床下部はホルモン分泌の司令塔
視床下部は脳下垂体に対して「ホルモンを分泌してください」とか「ホルモンの分泌をストップしてください」といった指令となるホルモンを分泌します。
少しややこしいですね。
実はホルモンを分泌するには、その指令となるホルモンが必要となります。
- GRH(成長ホルモン放出ホルモン)
- PRH(プロラクチン放出ホルモン)
- TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)
- CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)
- GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)
- GIH(成長ホルモン抑制ホルモン)
- PIH(プロラクチン抑制ホルモン)
例えばGRHというホルモンは、脳下垂体に「成長ホルモンを出せ」と指令を出すホルモンということです。
このような指令となるホルモンを分泌して、それぞれ身体に働きかけるホルモンの分泌をコントロールしています。
脳下垂体は身体に作用するホルモンを分泌する
視床下部からの指令を受けて、脳下垂体の前葉・中葉・後葉からは様々なホルモンが分泌されます。
脳下垂体前葉からは
- GH(成長ホルモン)・・成長を促したりする
- PRH(プロラクチン)・・女性の乳汁を調節する
- TSH(甲状腺刺激ホルモン)・・甲状腺ホルモンの分泌を促す
- ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)・・副腎皮質ホルモンの分泌を促す
- FSH(卵胞刺激ホルモン)・・性ホルモンの調節を行う
- LH(黄体形成ホルモン)・・性ホルモンの調節を行う
FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)を合わせてゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)といいます。
脳下垂体中葉からは
- MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)・・メラニンの形成を促す
脳下垂体後葉からは
- バゾプレッシン・・抗利尿作用があり腎臓で尿の濃縮を行うホルモン
- オキシトシン・・出産時の子宮収縮を行うホルモン。また、乳汁排出も促す(乳汁反射)
このように脳下垂体からは、臓器に直接作用するホルモンが分泌されます。
特にこの中で更年期と関係が深いのは、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)です。
卵巣機能低下で起こるホルモンの変化
ここからは着目点を卵巣に移して、ホルモンバランスがなぜ乱れるのか、その原因をみていきましょう。
30歳以降、卵巣機能は低下してくる
歳を重ねると身体のあらゆる機能が低下していくのと同じように、卵巣機能も低下していきます。
更年期と呼ばれる45歳くらいから卵巣機能の低下が始まるのかと思いきや、実は30歳あたりから卵巣機能は低下していきます。
ホルモンバランスが乱れる原因
卵巣機能の低下にともない、ホルモンバランスも変化していきます。
ちょっとここで、女性ホルモンの分泌までの流れをみていきます。
- 視床下部から脳下垂体へ、指令となるホルモンを分泌する
- 脳下垂体からFSHとLHという卵巣に働きかけるホルモンを分泌する
- 卵巣から女性ホルモンが分泌される
このような流れです。
卵巣から分泌される女性ホルモンというのが、エストロゲンとプロゲステロン。
女性らしさや妊娠準備など、様々な働きのあるホルモンです。
しかし、卵巣機能の低下によって徐々にエストロゲンとプロゲステロンの分泌も低下していきます。
そうなると脳下垂体は「あれ、ホルモン量が少ないぞ、もっと分泌して」と勘違いをし、指令を出すためにFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)の分泌量を増やすようになっていきます。
ホルモンバランスが乱れる原因には、卵巣機能の低下による脳下垂体の勘違いがあったのです。
このような理由から、更年期障害ではFSH(卵胞刺激ホルモン)の上昇とE2(エストロゲンの1種)の減少が診断基準となっています。
更年期で自律神経が乱れる理由
脳はそれぞれ個別に働いているのではなく、ネットワークを作って環境の変化に対応するよう働いています。
視床下部はホルモンを分泌するための指令を出すだけでなく、自律神経とも深く関係があります。
更年期の代表的な不定愁訴に、のぼせやホットフラッシュがあります。
のぼせやホットフラッシュは血管運動神経系の症状。
そして血管の運動を調節しているのは、自律神経です。
卵巣機能の低下で脳下垂体が勘違いを起こすと、ネットワークを構成している脳の中ではちょっとした混乱が起きます。
その混乱が原因で視床下部にもエラーが起こり、自律神経が乱れるといった症状が出現するというわけです。
ホルモンバランスの変化により様々な不定愁訴が起こる原因、なんとなくイメージできましたでしょうか?
また、更年期というのは女性のライフステージの中で様々な変化が起こりやすい時期でもあります。
- ホルモンバランスの変化
- 環境の変化
- 心理的な変化
このように様々な要因が重なって更年期の症状は出現するといわれています。
更年期に入り、ホルモン補充療法や漢方などの治療でケアすることはもちろん大切です。
しかしそれだけではなく、更年期を一つのきっかけにして自分の身体や心に耳を傾け、日常生活を振り返ってみることも大切なのではないでしょうか。
おわりに
自分の身体がどのように変化していくのかを知ることは、歳を重ねていくにあたって今後どのように過ごしていくのかというヒントになるかと思います。
今回の記事の内容を詳細に覚える必要はありませんが、仕組みを知ることは自分の身体と向き合う一つのきっかけになるかもしれません。
更年期による不定愁訴にはイライラや落ち込みなどの精神的な症状が出現する場合がありますが、それは精神の問題ではなく卵巣機能の低下によるホルモンバランスの変化が原因となる可能性があります。
そのため更年期における精神的症状でお悩みの場合、第一選択として更年期外来がオススメです。
もしも悩みがある場合は、精神科ではなく更年期外来に相談してみてくださいね。