今回はコリとは一体なんなのか?というお話です。
よくマッサージを受けに行くと「ここがこって、硬くなってます」とか、コリの部分をギューっと押されると「効くー、気持ちいいー」という感覚があるかと思いますが、このとき体はどのような反応を起こしているのでしょうか。
そんなコリのメカニズムを追ってみたいと思います。
詳細な解剖学・生理学のお話は割愛します。そこまで追うのはちょっとキツい・・
目次
コリの正体とは
こっている部分を触ってみると、硬くなっていることが多いかと思います。
その硬さは筋肉が硬く変形してしまっているわけではなく、ずっと縮こまってしまっている状態です。
筋肉には収縮させる、もしくは収縮させない(弛緩)ということしかできません。
では、その収縮や弛緩をコントロールしているのはどこの部分でしょう?
それは中枢神経系(脳、脊髄)です。
筋肉が動くメカニズム
体を動かす指令を出しているのは脳になります。
ちょっと専門的になりますが、そのメカニズムとしては
- 脳からの指令を受けて、動かす筋肉の細胞からカルシウムイオンが出る
- フィラメント(筋肉の繊維の1番細い単位)にカルシウムイオンが触れる
- ATP(エネルギーを作る源)を分解してエネルギーを放出する
- そのエネルギーを利用して筋肉が動き、身体が動く
こんなメカニズムになります。
複雑ですね。
ちなみにカルシウムが吸収されると筋肉は縮むことを解除しますが、それがうまく機能しなくなった状態が「つる」というあの痛いやつです。そのカルシウムの吸収を補助するのがマグネシウム。汗をたくさんかいてミネラルバランスが崩れるとつりやすくなるのは、そんな理由もあります。
そんなこんなで、正常に筋肉が動くメカニズムは脳からの指令によるものです。
さて、脳からの指令ならコリだって「おい、緩んでくれ」と命令を出せば緩むはずですよね。
しかし、いくら「緩め緩め」と思っても緩まない。
これはなぜでしょうか?
コリは体の防御反応
人間の体は意識しなくても勝手に動くものがあります。
心臓とか消化管とかは「動け」と意識しなくても勝手に動いてくれていますよね。
これは自律神経がコントロールしてくれているおかげです。
それと同じように、反射という体の反応があります。
たとえば、いきなり目の前にボールが飛んできたら目を閉じたり、熱いものを触ったら手を引っ込めたりしますよね。
体は危険を察知すると脳を介さずに勝手に動いて、危険を回避しようとします。
これが反射です。
ちなみに、膝の下をコンっと叩くと足がビョーンと伸びるのも反射です。
さて、コリというのは筋肉がずっと縮こまっている状態でしたよね。
危険を感じたときに体はグッと縮こまる反応をします。
これがポイントで、実はコリの正体とは、体が危険を察知しているために起こる反射の産物だったのです。
また、筋肉には粘性という特性もあり、連日の猫背姿勢でデスクワークをすると普段から猫背になる、というのもこの特性があるからです。
ずっと同じ姿勢でいると筋肉がこってくるのも「あ、ずっとこの状態をキープしとけばいいのか」といった感じで、筋肉へのスイッチがオンのままになってしまう、といったイメージでしょうか。
なんで筋肉がこるとダルいのか
筋肉が硬く、こったところで不快な感覚がなければいいのですが、やっぱり不快です。
しかし、その不快さを失ってしまうと危険を察知して起こる反射が機能してくれません。
熱いものに触って何も感じなければ、痛みを感じなくとも大火傷です。
不快さは体にとって必要なもの。
ちなみに、そのような体にとって不快な感覚(痛み)のことを侵害刺激なんていいます。
では、体にとって大切な不快な感覚を伝えてくれるものは何なのか。
それが、神経系というやつです。
情報処理係の神経系たち
まずは神経系にはどんなものがあるのか、図で見てみましょう。
色々ありますね。
この中でも、不快などの様々な感覚を中枢に伝えるのが感覚神経。
筋肉へ「縮んでちょうだい」と指令を出すのが運動神経となります。
これらの末梢神経は束になっていて、体の動きに伴って神経の束も動きます。
実は筋肉だけでなく、神経も一緒に動いていたのです。
硬くなった筋肉をストレッチしたりギューッと押すと「イテテ..」となるのは、末梢神経が圧迫されていたからです。
末梢神経の酸欠
末梢神経の束にも血管があります。
全身でもそうですが、酸素や栄養は血管を通して運ばれてきますよね。
神経も同じで、酸素や栄養が運ばれてくるから元気に働いてくれるわけです。
それが長時間の同じ姿勢などで体を動かさないでいると、酸素や栄養が上手く運ばれなくなり、老廃物の排出も滞ってしまいます。
すると神経が危険を察知し、反射によって筋肉が硬くなりコリが作られていくことに。
体を適度に動かすことが大切なのは、このようにコリが作られないようにするためでもあります。
そのコリ、本当なの?
さて、ここで痛みの定義について触れてみたいと思います。
触ってみると体がガチガチなのにコリを感じない人、柔らかいのにコリ感を全身に感じている人がいます。
これは一体どういうことでしょう。
感覚は個人的なもの
国際疼痛学会による2020年度の痛みの定義には
組織損傷が実際に起こった時あるいは起こりそうな時に付随する不快な感覚および情動体験、あるいはそれに似た不快な感覚および情動体験
と、あります。
必ずしも痛みというのはどこかが傷ついたから起こるわけではなく、個人的な体験だ、といったところでしょうか。
肩こりや腰痛がひどくて病院で検査をしたときに原因がよくわからず、湿布や痛み止めを出されて終わりなんて経験がある人もいるかと思います。
もちろん肩こりや腰痛には内臓の病気が隠れている場合があり、それはチェックしないといけないのですが、慢性的な痛みの場合だと検査をしてもわからないことが多くあります。
これは前述した末梢神経の反射によってコリが作られている可能性もありますが、心理的要因や社会的要因によって影響を受けている可能性もあります。
姿勢が悪いから、ヘルニアがあるから、筋肉が弱いから、果たしてそれは本当にコリの原因なのでしょうか?
もしかしたらそれらが本当にコリの原因かもしれませんが、短絡的にそこに結びつけて考えてしまうことは逆に痛みを生んでしまっている可能性もあります。
「あなたの体は歪んでいる」なんて言われたら、それが原因でコリが発生しているのだと思ってしまいますよね。
まるで呪いの言葉のように。
正確には、体の歪みが必ずしもコリに直結するわけではないということもわかっています。
また、「仕事が忙しくて全身コリコリだったけど辞めた途端に楽になった」なんて話はよくあります。
長時間、同じ姿勢でいなくて済むようになったからという理由も考えられますが、少なからずそこには心理的要因もあるはずです。
慢性痛とは急性疾患の経過過程、もしくはケガが治るのに必要な期間を1ヶ月以上経過しても持続する痛みのこと。だいたい3〜6ヶ月を越えて継続する痛み。
コリの解消法
マッサージ、ストレッチ、鍼灸、指圧などなどコリを解消する方法はたくさんあります。
これらの方法はおそらく、どれでもコリを解消できる可能性があります。
しかし、避けた方が良いやり方があります。
強い刺激です。
DNIC(広汎生侵害抑制調節)とは
日本語にすると漢字だらけのものが出てきましたね。
これは簡単にいうと、痛みを痛みで抑える方法です。
たとえばどこかに足をぶつけたりしたとき、腕なんかをつねって痛みを誤魔化した経験がある人もいるかと思います。
実は、強いマッサージなんかでも体では同じようなことが起こっています。
強刺激の悪循環
痛みが治るから良いじゃないかと思うかもしれませんが、強いマッサージをすると皮膚の神経や筋肉などの組織が傷つき、さらに痛みを発生させる原因になります。
その結果、筋肉はさらに硬くなり慢性的なコリをさらに慢性化させてしまう原因に。
強いマッサージにより、余計強い刺激を求めるようになってしまうという悪循環です。
では、「うー、効くー」といった強めのマッサージを受けた後にスッキリするのはなぜでしょう?
鎮痛物質の放出
体には痛みを抑える機能が備わっています。
オピオイドとか神経伝達物質とか呼ばれるものなのですが、そのような脳内物質が出るために痛みが抑制されます。
でも実は、そのような鎮痛物質は強いマッサージでなくとも放出されます。
強い刺激は気分が良い
いわゆる「痛気持ちいい」と表現される「効くー」という感覚のマッサージ。
せっかくマッサージに行ったのですから、しっかりやってもらいたいものですよね。
強めのマッサージ=やってくれる人が一生懸命だし、効果がありそうと思うかもしれません。
でも、それはしっかりやってもらっているわけではありません。
感覚の閾値も上がり、より強い刺激を求めるようになり、さらに筋肉も硬くなってしまうという悪循環です。
マッサージの強さの目安
さするくらいの刺激でも筋肉は緩むのですが、それでは正直物足らないですよね。
せっかくマッサージを受けに行ったのに、ゆさゆさ揺らされて、さすられるだけ。
こんなのは嫌です。
そこで、マッサージの強さの目安を覚えておくと良いでしょう。
マッサージの強さの目安とは自分の感覚です。
それは、気持ち良いかどうか。
痛気持ち良いではなく、気持ち良い範囲での刺激でマッサージを受けるのが一番良いかと思います。
狙う筋肉の深さによってはグーっと圧迫を加えないと届かなかったり、あえて強い圧迫で行ったりもします。このあたりは受け手としては判断が難しいですが、やみくもに強く押すようなマッサージは避けた方がいいでしょう。
姿勢や骨盤の前に、動く方が大切
筋肉を動かせばコリは出現しないとまではいいませんが、今よりはずっと楽な状態になるはずです。
正常な可動域の範囲(無理のない範囲)で背伸びをしたり、背中を伸ばしたりといったことを定期的に行えばガチガチになることを未然に防げます。
筋肉を定期的に収縮、弛緩させて神経に「大丈夫だよ」と声をかけるイメージでしょうか。
そのような感覚で筋肉を動かして、筋肉の危険だよ信号を出させないようにしてみましょう。
おわりに
長々と説明した割に、具体的なセルフケア方法を載せなくて申し訳ございません。
でも、YouTubeやインスタなんかで探せば、セルフケア方法なんかはいくらでも手に入ってしまいます。
発信がしやすい分、間違った情報もあります。
そこでまずは、そもそもコリとは何かということを知っておくと良いかと思います。
強い刺激を与えるようなセルフケア動画なんかを見たとき、是非とも怪しんで調べてみてから実行してください。