当店ではハーブテントをご提供しています。
ハーブテントの特徴の一つに「ハーブの蒸気を呼吸から取り入れることで、呼吸器からもハーブの成分を取り入れることができる」というものがあります。
当店でもハーブテントを紹介する際にお伝えしている内容です。
では、実際に肺からハーブの成分は吸収されるのでしょうか?
また、吸収されたハーブの成分は体のなかでどのような働きをするのでしょうか?
今回は、基礎医学や近年の研究をもとに
- ハーブの成分は呼吸からどれくらい吸収されるのか
- ハーブテントの効果はどこまで期待できるのか
この2つの疑問について考えてみたいと思います。
目次
肺は吸収する臓器でもある
肺の働きとして、酸素を取り込み、不要になった二酸化炭素を外に出すというものがありますが、肺の働きはそれだけではありません。
物質を体内へ吸収するという働きもあります。
ここでちょっと、肺の構造をみてみましょう。
肺のなかには肺胞という小さな袋がたくさん存在していて、この肺胞をすべて広げるとおよそテニスコート半分くらいの広さになるといわれています。
肺胞の表面には毛細血管が張り巡らされており、とても薄い膜でできています。
この構造によって吸い込んだ酸素はすぐに血液へ取り込まれ、二酸化炭素は血液から肺へ移動して体の外に排出されます。
そして、医療ではこの仕組みを利用した治療が行われています。
喘息の薬や吸入麻酔薬などは、肺から薬剤を取り込むことで効果を発揮します。
呼吸から物質を体内へ取り込むという仕組みは特別なことではなく、医療でも利用されている仕組みなのです。
ハーブも同じように取り込まれるのか
では、ハーブテントで使用するハーブの成分も薬と同じように肺から吸収されるのでしょうか?
じつは、ハーブに含まれる成分すべてが呼吸から吸収されるわけではありません。
一部の成分は吸収される可能性がある、というのが実際のところです。

ハーブにはさまざまな成分が含まれていますが、それらすべてが蒸気として空気中に広がるわけではありません。
ハーブテントで空気中に広がるのは、主に揮発性成分と呼ばれるものです。
※揮発性・・温められることで空気中に広がりやすい性質
ハーブやアロマの香りを感じられるのは、この揮発性成分が空気中に広がっているため。
つまり、ハーブテントで呼吸から取り込まれる可能性があるのは、この揮発性成分だと考えられています。
肺から吸収される可能性がある成分とは
では、どのような成分が肺から吸収される可能性があるのでしょうか?
例えば、アロマで使われる精油を用いた研究では、吸入した成分(リモネン、リナロール、1,8-シネオールなど)が血液や呼気、尿などから検出されたとのことで、一部の成分は肺から吸収されるといわれています。
レモンやラベンダー、ユーカリなどの香り成分は、少なくとも一部は体内へ吸収される可能性があると考えられます。
もちろん、ハーブテントの香りもです。
「いい香りだな」と感じるだけではないということですね。
ただし、注意しなければいけないのは体内へ吸収されるからといって、十分な薬効があるとはいえないことです。
例えば、薬には有効性や安全性が確認された投与量というものがありますが、ハーブテントではハーブの種類や量、温度や湿度、入っている時間や呼吸数など、さまざまな条件によって吸入される成分量が変化すると考えられます。
そのため、どこまで作用が期待できるのかについて、現時点では十分な研究があるとはいえません。
まとめると、ハーブテントで一部の揮発性成分は肺から吸収される可能性があるが、十分な薬効があるのかはまだ明らかではない、というのが結論です。
ハーブテントではどのような成分が体内へ吸収されるか
ここまでの内容で、ハーブテントでは一部の揮発性成分が肺から体内へ吸収される可能性があることをみてきました。
次は、具体的にどのような成分が体内へ吸収される可能性があるのか、みていきましょう。
いい香りの正体「テルペン類」
私たちがハーブやアロマを「いい香りだな」と感じるのは、植物に含まれる揮発性成分によるものです。
植物の香り成分の多くは、テルペン類と呼ばれる天然由来の化合物で構成されています。
植物自身が作り出す、天然の香り成分といったところでしょうか。
代表的なものだと、柑橘系のリモネン、ラベンダーなどのリナロール、ユーカリなどの1,8-シネオールなどがあります。
これらの香り成分、植物にとっては虫や病気から体を守ったり受粉を助けたりする役割もあります。
植物が生きるためにつくり出している天然成分でもあるということです。
私たちにとって心地よい香りは、植物にとっては生きていくための大切な役割を担っているのですね。

テルペン類に期待される働き
テルペン類について調べてみると
- リラックス効果
- 抗炎症作用
- 抗菌作用
など、さまざまな働きが紹介されています。
また、これらの多くは精油を用いた研究になりますが、吸入することにより不安や緊張感の軽減、気分の改善などが報告されているものもあります。
では、ハーブテントではどうなのでしょうか?
残念ながら現時点で、ハーブテントそのものを対象とした研究はほとんどありません。
タイでは伝統医療としてハーブスチームに関する研究が行われていますが、呼吸から吸収された香り成分がどのように作用したのかを直接調べた研究はまだ限られています。
精油を用いた研究結果をそのまま当てはめることはできませんが、ハーブテントでも同じような香り成分を吸入することから同じような作用が得られるのではないか、その可能性について研究する価値はあると私は考えています。
わかっていること、わかっていないこと
ここまで、ハーブテントについてわかっていることをみてきました。
- 肺は物質を吸収する臓器でもある
- ハーブの一部の揮発性成分は、肺から体内へ吸収される可能性がある
- 香り成分のテルペン類にはさまざまな働きが報告されている
これらのことについては研究によって、少しずつわかってきています。
科学ではわからないことがあるのは普通
わかっていることの一方で、わかっていないこともあります。
- どの程度の成分が体内へ取り込まれるのか
- どの量でどのような作用が期待できるのか
このようなことについては、まだ十分な研究があるとはいえません。
わかっていること、まだわかっていないことがごっちゃになっているのが現状です。
ただ、これはハーブテントだけに限った話ではありません。
健康や医療の分野では新しい研究が積み重なることによって、考え方が変わるなんてことはめずらしくないことです。
効果があるのか、効果がないのか、どちらかすぐに結論を出すのではなく、現在わかっていることを整理しながら考えていくことが大切なのではないでしょうか。
ハーブテントに期待すること
私が初めてハーブテントに入ったとき、重だるい心地よさを感じました。
よもぎ蒸しやサウナとは違う。
お風呂とも違う。
心身ともにゆるむ、それでいてスッキリとした不思議な感覚がありました。
これはいいと思っていろいろと調べたのですが、現時点ではハーブテントの効果を十分に証明した研究は多くありませんでした。
では、ハーブテントは意味がないのでしょうか?
私が感じた、サウナとは少し違うあの心地よさは、何によるものだったのでしょうか。
ハーブテントには温かい蒸気で全身を包む温熱効果に加え、植物の香りを全身に浴びたり、テント内で一人ゆっくりと静かな時間を過ごしたりといった、さまざまな要素があります。
それらについて、研究が進んでいるものもあれば、まだわかっていないものもあります。
これから研究が進むことで、ハーブテントの可能性がもっと科学的に説明できるようになるのではないかと私は期待しています。
これからも新しい研究を追いながら、わかってきたことはもちろん、まだわかっていないことも含めて、できるだけわかりやすくお伝えしていきたいと思います。
参考文献
肺を通して体内に薬を届ける方法について書かれた記事
Patton JS, Byron PR. Inhaling medicines:delivering drugs to the body through the lungs. Nature Reviews Drug Discovery(2007) PMID: 17195033 DOI: 10.1038/nrd2153
揮発性成分やテルペン類の特徴、生理作用について書かれた記事
Antonelli M, Donelli D, Barbieri G, et al. Forest Volatile Organic Compounds and Their Effects on Human Health: A State-of-the-Art Review. International Journal of Environmental Research and Public Health(2020) PMID: 32906736 doi: 10.3390/ijerph17186506
アロマセラピーによるストレスや不安への影響について書かれた記事
Hedigan F, Sheridan H, Sasse A. Benefit of inhalation aromatherapy as a complementary treatment for stress and anxiety in a clinical setting: A systematic review. Complementary Therapies in Clinical Practice(2023) PMID: 37031643 DOI: 10.1016/j.ctcp.2023.101750
健康成人130名を対象に、ハーブスチーム前後の体温・心拍数・血圧などを評価した研究
Paraput T, Thippayacharoentam T, Nopmaneejumruslers C, et al. The Effect of Herbal Steam Bath in Cloth Tents on Vital Signs and Body Weight in Healthy Volunteers. Journal of Thai Traditional and Alternative Medicine(2018)